二人でおいしくフィリピン料理を食べた日
彼がクルマのハンドルを切りながら
延々と止まらないしゃっくりに顔をしかめている
わたしのアタマは5年前の記憶の旅を始めた
夏のイギリス
まだあの頃はリコンファームが必要で
格安で海外旅行をしていたわたしたちは
ロシアの航空会社のロンドン支店を探し彷徨っていた
やっとの思いで見つけ出した航空会社の窓口にいたお姉さんは
しゃっくりし続ける彼に
大丈夫?と聞くとたっぷり水の入ったちっちゃな紙コップを差し出した
そして彼女が言う
水をゆっくり飲むといいわ
そして止めるための魔法のコトバのように
Slowly slowly slowly
と彼女はコップの水を飲む彼の横でつぶやいた
そして彼のしゃっくりは彼女の魔法で消えた
わたしの記憶では彼がしゃっくりしたのはそれ以来の出来事だった
わたしは彼に言う
イギリスを思い出したよ
そして運転する彼に持っていたアクエリアスを差し出すと
SLowly slowly slowly
と魔法のコトバをつぶやいた
次の朝
そのコトバでやはりしゃっくりが止まった彼は自分の畑の手入れをしながら言う
しゃっくりするたびに僕らはヨーロッパ旅行ができるね
すばらしい
そして彼の今年の夏の夢
緑のカーテンは成功してもうすぐ我が家のゴーヤが食べられる