おかあさん、引越しできそうもない
わたしは電話越しにハスキーヴォイスになった声で弱音を吐いた
SOSではあったけれど愛知まで来てくれることは期待はしていなかった
5年間暮らしていて母が来たのはたった1度だけ
けれど引越しの日が近づくと同時に母はやってきた
雨のなか愛知に着くとすぐ母は部屋を見渡し
よく、がんばってたね
汚い部屋を見てそう口にした
掃除のために服を着替え
雨の日に窓をみがくときれいになるのよ
と窓拭きを始めた
母が掃除が得意だったという印象はない
けれど窓拭きする後ろ姿見ていると
小さな身体で布団を干したり毎日掃除機をかけている幼い頃見た記憶が思い出された
母がみがいた窓は本当にきれいで
窓越しの景色を見ると自然と涙がわたしの頬をつたっていた
おかあさん、景色がきれいに見えるよ
もう、こんなにきれいにここからの景色が見えないとわたし思ってたの
窓拭きって大事、自分の見える景色も変わる
母は寝てなさい、疲れてるんでしょう
と微笑んだ
一日掃除を終えた母は満足げに
今度良いほうき買いなさいね、来れて本当に良かった
と言い残し、家を後にした
夕暮れどき、雨音がする日
ひかりの反射が見せる窓の汚れを見るたび
わたしは窓みがきをするようになった
そして最近彼も
良いほうき買おうと思ってるんだ、どこのが良いとおもう?
とわたしに聞くんだ